自作小説『プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負』後日談1~あたしの彼氏はプロ野球選手~


こんにちは、『優月の気ままな創作活動』にお越し頂きありがとうございます。

管理人の春音優月(はるねゆづき)と申します。

今回もまた過去に書き下ろしたSSのお引っ越しです。自作小説の後日談ですが、本編よりも少し大人になった二人を書いてみました。

本編の小説情報

小説のリンク先は、小説投稿サイト 野いちご です。

『プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負』
【青春】【ギャルと野球少年】【甲子園】
2015.10.01~2016.07.08
惚れっぽくて飽きやすいギャルが、年下野球少年に本気の恋をして、一緒に甲子園を目指すお話。

小説紹介のブログ記事はこちらから

後日談『あたしの彼氏はプロ野球選手』

『プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負』 高校卒業後の後日談

早朝、せわしなく会社に行く準備をしているパパとは反対に、あたしはのんびりとテレビを見ながら、トーストをかじる。

今日は午後から授業があるだけで、バイトも何もない日。

もう大学も残り一年となって、単位もほとんど取得し終わって、大学にほとんどいかなくなった。今では大学に行くのは一週間に二日くらい。

そんな優雅な朝を過ごしていたら、テレビからはいよいよ今日からシーズンが始まるプロ野球のニュースが。 

その中にあたしの彼氏の名前も出てきて、思わずにやけてしまった。

「まさか今日のオープン戦、授業さぼって見に行く気じゃないよね」

台所で何かしていたと思ったのに、それをめざとく見つけたママから冷たい視線を受ける。  

「まさか~」

笑ってごまかしたにも関わらず、無言で冷たい視線を送り続けてくるママ。

うん、バレてるわ。

「だって、今シーズンのオープン戦だよ?しかも彼氏も出てるんだから、見たいに決まってる。
大学は、一日くらいさぼったって大丈夫なの。ママだって、サボったことあるっしょ?」

そもそも授業はほとんどなくなったっていうのに、オープン戦の今日に限って午後からの授業があるのが悪いよね。

オフシーズンの頃はちょくちょく会えたけど、シーズンが始まってしまえばそうはいかない。本当は毎日だって会いたいんだから、これでも我慢してる方だ。

「みどりの場合、一日だけじゃないでしょ?一輝くんに会いにいく、とか今日はどうしても見なきゃいけない試合だとか、しょっちゅう理由つけてサボってるじゃない」

「だって、会いたいんだもん!我慢なんてできない。ていうか、単位は順調にとれてるんだからいいじゃん」

「どうかしたの?」

半分呆れられつつも、ママと言い争っていると、パパはネクタイを結びながら、ひょっこりと顔を出す。

「それが……、一輝くんのオープン戦見たいから、みどりが授業休むって。パパからも何か言ってよ」

「お、今日オープン戦か~。
よし、俺も会社早退しよう」

ママが疲れきった顔で告げ口すると、ニヤニヤとしまりのない顔でそんな冗談を言い始めたパパ。いや、うちのパパは相当な野球好き、案外冗談じゃないかもだけど。

「じょ冗談だよ冗談。そんな目で見ないでよ。おっと、早くいかないと遅刻だ!いってきまーす!」

冗談なのか本気なのか分からないけど、ママから冷たい視線を向けられたパパは、バタバタと家を出て行った。

「今年卒業でしょ?
卒論はちゃんとやってるの?」

「まあ、ぼちぼちね」

ママは玄関の方を見ながら一堂ため息をつくと、くるりとこちらに向き直りまたお小言の続きが始まった。

「就職活動は?」

「そっちもぼちぼちかな」

気のない返事を繰り返してると、いきなりテレビの電源を消された。

ああっ、一輝くんがうつるかもしれないのに!なんで消すのよ。

「いい加減にして。卒業したらどうするのか、ちゃんとまじめに考えてるの?」  

「一輝くんと結婚する」

「……一輝くんはプロ野球選手だし、生活の心配はしてないけど、具体的な約束してるわけじゃないんでしょ?一輝くんが結婚してくれるならいいけど、一輝くんの周りにはきれいな人がたくさんいるんだし、その……。こんなこと言いたくないんだけど、もし、別れたりしたら……」

今まではあたしに呆れていたママだったけど、さすがに言いにくかったのか、そこはくちごもっていた。

ママの言いたいことは分かる、分かるけどそれを聞いて冷静でいられなくなり、頭に血が上っていくのを感じる。

「別れない!
じゃあなに?ママは明日パパが死ぬかもしれない、離婚するかもしれないって思いながら生きてるの?違うでしょ?
あたしだって、そう。一輝くんと一緒にいられない未来なんて考えたこともないし、考えたくもない!
一輝くんがあたしを必要としなくなっても、あたしはどこまでも一輝くんを追いかけていく。一輝くんの隣が、あたしの生きる場所なの。
一輝くんの行くところにどこまでもついていく、それが、あたしの生き方なの!」

ついカッとなって一気にまくしたてると、ママが止めるのも無視して、家を飛び出した。

***

「一輝くん、今シーズンも絶好調みたいだね!オープン戦からホームラン打つなんてすごいよね」

一輝くんから食事に誘われてきたけど、先ほどまで見ていた試合の興奮も冷めぬまま熱く語りつつも、あたしは周りを見渡してそわそわしている。

だって、なんかこんなドラマとかに出てきそうな…….、夜景が見える高級レストランなんてどうしたのよ?

一輝くんは一応有名人だから、あんまり一目につくとこでは会えないけど、こんなおしゃれなとこにくるのはめったにない。

あたしはこういうとこはむしろ好きなんだけど、一輝くんは洒落たとこはかしこまってしまうから苦手らしい。

だから、いつもは居酒屋の個室とか、一輝くんの部屋とかが多いんだけど……。

どういうつもりか全然分からないけど、もう少しかしこまった格好できたらよかった。カジュアルな格好のあたしとは違って、自分だけちゃっかりスーツできている一輝くんには、前もって言っておいてよ、と若干苛立ちを感じる。

「お母さんに今日遅くなるって連絡しなくても平気?」

あたしの話をニコニコと聞きながらも、ふと腕時計を見て、時間を気にし始めた一輝くん。急に食事に誘ったこと、気にしてるのかな。  

「いいの、いいの。実は今日ケンカしちゃてさ、」

今日あったことをざっくりと話すと、ニコニコしていた一輝くんはだんだん真顔になり、それからこう言った。

それはみどりが悪いよ、ちゃんと謝った方がいい、と。

「一輝くんまで、説教?」

そりゃあたしだって、ママが心配して言ってくれたんだってことは分かってる。

だけど、あたしはあたし。この生き方を変えるつもりもないし、譲るつもりもない。

「俺のために試合見にきてくれたのは嬉しいけど、授業は出た方がいい。もうすぐ卒業なんだから」

「だから、卒業はするってば。
一輝くんは大学行ってないから知らないかもしれないけど、多少休んだって平気なの。

それより、一輝くんはあたしに会えなくても平気なの?女子アナとのお食事や合コンで忙しいのかもしれないけど……」

あたしは高校卒業してすぐに一緒に暮らしたかったくらいなのに、もうすぐ大学卒業にも関わらず、一輝くんはまったくプロポーズの気配さえない。 

カラオケでプロポーズソングを歌ってみても。あたしが一輝くんの部屋に、結婚情報誌や、ほしい婚約指輪に丸をつけてある広告をこっそり置いていっても。半分書いた婚姻届を置いていっても、全てスルー。

ここまで結婚したいアピールしても気づかないって、逆にすごい。いや、もう、気づいてるよね。

高校の頃からずっとあたし一筋で、よそ見なんて一度もしなかった一輝くん。愛されてる自信もあったし、浮気なんて疑ったことなかった、……けど。

一輝くんはプロ野球選手、高校までとはもう違うんだ。やっぱりママの言うように、女子アナや美人モデルの方が良くなったのかも……。

「違う、合コンなんて行く暇あったら、みどりに会いにいってる」

「じゃあ、何で?一輝くんはあたしと結婚、」

結婚する気ないでしょ?なんでプロポーズしてくれないのよ?

そう言おうとしたけど、言葉が出てこない。

だって、もし、する気ないって言われたら?別れようって言われたら?

誰にでも物怖じしないあたしだけど、一輝くんのことに関しては、別。とたんに臆病になる。弱いあたしになる。

「今シーズンで結果出せたら、メジャーに挑戦しようと思ってる」

あたしがためらっていると、ふいに話題を変えてきた一輝くんに一瞬固まってしまった。  

メジャー挑戦?

「すごい!応援するよ!
ていうか、あたしも、」  

初めての甲子園は二回戦敗退してしまったけど、あたしが卒業した後の最後の夏、甲子園準優勝を果たした一輝くん。 

下位指名だったけど、地元の球団から指名されて、プロ入りして今年で三年目。  

たしかにプロに入ってから調子はいいみたいだけど、まだ早すぎるんじゃ、とは思わなくもない。

だけど、一輝くんが決めたことなら、絶対応援する。ていうか、あたしもついていく。

「みどりもついてきてくれる?
お父さんお母さんに認めてもらうためにも、ちゃんと大学は卒業してほしい」  

「いくいく!もちろん卒業もする。
ワーキングなんとかでいくよ。日本で就職するつもりだったけど、一輝くんがアメリカ行くなら、あたしもいく。バイトでも見つけて、」
 
もちろんついていくに決まってる。 

メジャー挑戦。アメリカ行き。
テンションが上がりすぎたあたしを、一輝くんは真顔でとめた。

「そうじゃない。
……そうじゃなくて、家族として一緒にきてほしい」 

「え?
それ、って…….」  

いつもよりも、ずっと真剣な表情。
野球をやっている時とはまた違う顔。 

何を言われたのか理解しようとしているうちに、誰も呼んでもいないのに、ウェイターが部屋に入ってくる。 

そして、丁寧に小さな箱をテーブルに置くと、うやうやしく頭を下げて出て行ったウェイター。  

「一輝くん……、これってもしかして……」
 
あけてみて、とうながされて小さな箱を開けると、そこには、あたしが広告に丸をつけた指輪が入っていた。  
  
(おしまい)

あとがき

ちなみにこの後は、みどりが大学さえ卒業すれば、家族の反対とかは特にないかと。一輝くんのとこは、本人たちに任せるといった感じ。
みどりパパはプロ野球選手と結婚するなんてでかした!と大喜び(笑)
みどりママはみどりが大好きな人と結ばれることにそっと涙して喜んでくれるでしょう。

創作活動, 短編・番外編

Posted by 春音優月