自作小説『プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負』後日談2~どこでだって、輝けるよ~
こんにちは、『優月の気ままな創作活動』にお越し頂きありがとうございます。
管理人の春音優月(はるねゆづき)と申します。
今回もまた、過去に書き下ろしたSSのお引っ越しです。
本編の小説情報
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・ 『プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負』
【青春】【ギャルと野球少年】【甲子園】
2015.10.01~2016.07.08
惚れっぽくて飽きやすいギャルが、年下野球少年に本気の恋をして、一緒に甲子園を目指すお話。
後日談『どこでだって、輝けるよ』
『プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負』 結婚後の後日談
「もう、パパ!いつまで寝てるの?
シーツ交換したいから、寝るなら一階のソファで横になってよ」
子どもたちを学校に送り出し、朝ごはんの後片付けや洗濯、家の掃除をした後。
二階のベッドのシーツを洗濯しようと、寝室をあけると、子どもたちのパパであたしの夫が、まだ横になっていたので、呆れてしまった。
眠っているわけでもなく、目を開けてただぼんやりと天井を見つめていたパパは、あたしが声をかけると、気のない返事をして立ち上がる。
まったく……。
いつまで、ああなわけ?
あたしの夫はメジャーリーガー、…….今はマイナーリーグ落ちしたけど、とにかくアメリカでプロ野球選手として活躍中だ。
そんな野球のシーズンが終わって、一週間。オフシーズンに入り試合もなくなったいま、あたしの夫はトレーニングもしないで、毎日家でゴロゴロしている。
今まではこんなこと一回もなかったのに…….。
ぬけがらのようになった夫が、寝室を出ていくのを見つめながら、あたしはこっそりとため息をついた。
***
「パパ、お昼ごはんどうする?
朝ごはん食べてないから、お腹すいたんじゃない?」
一通り午前中の家事を終えてリビングに戻ると、まだソファで横になっていた夫にお昼をどうするのかたずねる。
子どもたちが学校の日はあたしひとりだから、いつもは簡単にすませちゃうんだけど、パパがいるとそうもいかないのよね。
いちおう、体が資本のプロ野球選手だし。
「ねぇ、パパってば。
カズ?聞いてる?」
「……うん」
何回も話しかけてるのに、あたしの方を見もしないで、生返事を繰り返すパパにはもう限界。
だって、もう一週間だよ?
そのうち立ち直るかと思って、黙って見守ってたけど、もうムリ。
「いい加減にして!
いつまでこうなのよ!
そこに座りなさい!」
「…….は、はいっ!」
ついにキレてしまったあたしが大きな声を出すと、急いでソファから飛び降り、なぜか床に正座したパパ。
「仕事のことでしょ?悩んでるの」
夫を神妙な顔で床に正座させたまま、あたしはソファに腰掛け話を切り出すと、夫は意外にもあっさりとうなずいた。
「来季で結果出せなかったら、戦力外通告されるかもしれない」
「……だろうね」
アメリカにきて、十二年。
日本では良い成績を残していたけれど、アメリカにきてからのカズは、三年目にマイナー落ちしてから、メジャーとマイナーをいったりきたり。
ここ数年はすっかりマイナー落ちして、メジャー昇格の気配すらないし、しかも今シーズンはそのマイナーリーグでさえも、イマイチな感じだった。
「ここで踏ん張らなきゃいけないって分かってるけど、気持ちが続かない。あのまま日本にいた方がよかったんじゃないかと思うと、みどりにもこどもたちにも申し訳なくて…….」
「……そう、じゃあ、日本に帰る?
踏ん張らなきゃって、それが二年目三年目ならまだ分かるけど、十年以上やってきてコレなんだから、もう限界だって自分が一番よく分かってるんじゃないの?
それでもパパがまだこっちで頑張りたいって言うのなら応援するけど、もうパパの気持ちは、こっちにあるように見えないよ」
あたしよりひとつ年下の夫は、今年で34才。
一般企業に勤める人なら、ちょうど働き盛りの頃だろうけど、スポーツ選手の全盛期は短い。
もっと若い頃だったら、結果が残せなくてもがむしゃらに突っ走れても、昔よりも体力がなくなったいま。
ここから這い上がるのは、体力以上に気持ちがついていかないのかもしれない。
「日本に戻ったところで、もう居場所なんてない」
小さくつぶやいたパパは、甲子園目指すんだメジャー挑戦する、と熱い思いがあったあの頃とはまるで別人みたい。
「そう、かもね」
成功して帰ってくるならともかく、失敗して帰ってくるなんて、バッシングされるのが目にみえている。
いや、バッシングされるならまだいいけど、バッシングどころか今のパパはもう話題にも上らない、正直忘れ去られた人なのかもしれない。
「プロ野球は復帰できないかもしれないけど、それなら少年野球の監督は?
パパ、前言ってたでしょ?引退した後は、今度はこどもたちの夢を応援したいって。
まだ引退……、にはちょっと早いかもしれないけど、こどもたちの夢を応援するのもすごく素敵な仕事だよ。
野球がダメなら、他の道だってある」
そりゃ今はぬけがらみたいになってるけど、でもあたしはパパならまた再起してくれると信じてる。アメリカじゃなくたって、メジャーじゃなくたって、きっとどこでだって輝ける。
「……こっちで得られていた生活の安定はすぐには得られないかもしれない。それに俺の都合で子どもたちを生まれた国から引き離すのも……」
「大丈夫、貯金はたくさんある。
こどもたちだって、きっと分かってくれる。失敗を恐れずに挑戦し続けるのが、パパの生き方でしょ?」
上のお姉ちゃんはしっかりもの、下の男の子はまだまだ甘えん坊だけど、ふたりともすごく良い子に育ってくれた。
話せばきっと分かってくれると思うし、子どもたちだって、こんなぬけがらのようなパパよりも、キラキラ輝いてるパパの方がずっと好きなはず。
それにあたしだって、結果よりなによりも、いつでも挑戦し続けるカズのことが好きなんだよ。
けれど、色々励ましたりハッパをかけてみても、気のない返事を繰り返すパパにはちょっとがっかりしてしまった。
「本気でおかしいよ?最近。
あの頃のカズはどこにいったのよ。
あんまりがっかりさせないでよ……」
「がっかりさせてごめん……。
裕貴や秀徳さんはちゃんと結果を残してるのに……。もしあのとき、秀徳さんを選んでいたら……」
あたしが秀を選んでたら、今ごろあたしはメジャーリーガーの妻だったって?
ああもう、本気でイライラする。
なんでそうなるのよ。
あたしの弟と幼なじみは、プロ野球選手。
そしてメジャーで華々しい活躍をしている。
昔からの知り合いのふたりが結果を残せているのに、自分は……ってとこに引け目を感じているのかもしれない。
そんなことに引け目を感じる必要なんて、ちっともないのに。
メジャーリーガーでスーパースターじゃなくても、カズはすごく素敵なひとなのに。そんなカズを、あたしは愛しているのに。
「ばか!違う!
そんなことにがっかりしてるんじゃない!
あたしの夫は、カズなんだよ?
裕貴や秀の活躍なんて関係ない。
そうじゃなくて、カズがぬけがらのようになってるから、がっかりしてるの!
もう一度、あの頃みたいに新しいことに挑戦し続けるカズを、あたしに見せてよ……っ」
二児の母になって、昔よりだいぶ落ち着いたはずだったのに、うっかり感情が高ぶって、年がいもなく、泣きながら怒鳴りちらしてしまった。
しかしそこまでした甲斐あって、ようやくあたしの気持ちが伝わったのか。正座していたカズはあたしの隣にくると、ごめんと一言だけ言って、あたしを抱きしめる。
「もう……、本当に……。
もう少ししっかりしてよ?
来年にはカズの子どもが生まれるんだから」
「え?」
あ、しまった。
もう少し落ち着くまでは黙っておこうと思ったのに、つい口が滑ってしまった。
「それって……、三人目ができたってこと……?」
パパは先ほどまでの不甲斐ない態度とはうってかわって、真剣な表情であたしの肩に手を置く。
そんなパパに嘘がつけるわけもなく、あたしはうなずいた。
「そう、……みたい」
あたしたちにはふたりの子どもがいるけど、元々あたしもカズも、子どもはたくさんもつことが夢だった。
三人はほしいね、って結婚したばかりの頃は言ってたんだけど……。
結婚してすぐに妊娠して、次の子どももスムーズに妊娠したけど、そこから三人目がなかなかできなくて、すでに9年。
今では長女は11才、長男は9才になってしまった。
「びっくりだよね、9年もできなかったのに。あたしももう若くないし、予定外の妊娠だけど、でも……」
あたしも、もう35才。
自分ではまだまだ若いつもりだけど、医学的には35才から高齢出産になるわけだし、前の出産から9年も空いている。
不安がないわけじゃない。
それになにより、当初は三人目を望んでいたあたしたちだったけど、あまりにもできないから、最近は三人目の話題さえもでなかった。
子どもたちもだいぶ大きくなってしまったし、今さら三人目ができたって聞いてカズはどう思うかな……。
「そっか……、三人目が……。
二人だけでもすごく幸せだったのに、三人目も出来るなんて夢みたいだ。
……ありがとう、愛してる」
産んでいいよね、と聞く前に、カズは涙ぐみながら、あたしをガバっと抱きしめた。
あまりの喜びように、あたしの方がびっくりしたけど、そんなカズに胸が温かくなる。
「あたしも、愛してるよ」
せっかく宿った命。
カズがダメだって言っても、もちろん産むつもりだったけど、どんな反応をされるのか、本当は少しだけ不安だった。
そんな心配をするのはムダだったみたいで、三人目の妊娠報告にすごくすごく喜んでくれたカズ。
そんなカズをみると、やっぱりあたしはカズのことを愛してるんだと思う。昔も今も、変わらずずっと。
「……みどり、やっぱり日本に戻ってもいい?挑戦したいことがある。
いまなら、何でもできるような気がしてきた」
さっきまで涙ぐんでいたかと思えば、今度は真剣な表情であたしの手を握りしめるカズ。
昔のように、熱い思いを秘めた目。
そこにはもう、さっきまでのぬけがらのようだったカズはいない。
「そうだよ、なんだってできる。
カズが決めたことなら、あたしは応援する。カズならどこでだって輝けると信じてるよ。大丈夫、なんとかなる。
失敗したって、あたしがついてる。
子どもたちだっている」
「ありがとう。
みどりや、二人の子どもたち、それから……お腹の子に恥ずかしくないように、父として男としてがんばるけん」
今ではすっかり出なくなっていた、生まれ育ったところの方言が久しぶりに出たカズに、なんとなく懐かしい気持ちになる。
大丈夫、きっとカズならまた再起してくれる。カズは昔も今も変わらない、いつでも挑戦し続ける人なんだから。
そんなカズを、あたしはいつだって愛してる。
(おしまい)
あとがき
本編では一輝くんの未来は明確にしたくなかったので伏せましたが、一応自分の中ではこんな感じの未来を思い描いていました。
どんな感じの未来にしても、二人は助け合って生きていくんだろうと思います。
可愛いものと猫と創作が大好きな物書き。
執筆ジャンルは、恋愛(TL/BL/GL/TSF)、ファンタジー、青春、ヒューマンドラマ、など雑多。年下ヒーローと年下攻めを特に好みます。
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