自作小説『たとえ愛なんてなかったとしても』番外編~誘惑~
こんにちは、『優月の気ままな創作活動』にお越し頂きありがとうございます。
管理人の春音優月(はるねゆづき)と申します。
今回は、執筆五周年を記念して昔のブログに書いたSSをこちらのブログに載せようと思います。
自作小説の番外編なので、例によって思いきり本編のネタバレを大いに含みますが、気にしない方は本編未読の方ものぞいて頂けると嬉しいです。
本編の小説情報
小説のリンク先は、小説投稿サイト 野いちご です。
・ 『たとえ愛なんてなかったとしても』
【青春】【仲間】【芸能界】【アジア】
2013.04.01~2014.05.01
日本で活躍する国籍混合男女混合のダンスボーカルグループは、メディア向けには仲良しグループを演じているが、本当は微妙な関係。メンバーそれぞれの思いと、恋愛友情を描いたお話。
番外編『誘惑』
・ 『たとえ愛なんてなかったとしても』 番外編(俊輔×キャシー)
香港での夜。仕事を終わらせ、俺からメンバーのエリックさんを晩飯でもと誘った帰り。
俺とエリックさんは、たくさんのファンに追いかけられて走っていた。
「どうして俺たちがここにいるって気づかれたんだ?」
普段からトレーニングしているから、さすがにこれくらいでは息を切らさないけど、エリックさんは少しだけ眉をひそめる。
俺たちのメイン活動拠点の日本だけではなく、ありがたいことに最近では中華圏でも人気が出てきたみたいで、街を歩けば気づかれる、ということも増えてきた。
「嬉しいけど、困りますね」
普段から応援してくれてるファンだ。
もちろんありがたいし感謝の気持ちはあるし、立ち止まってちゃんと対応するのが礼儀だと思う。でも、2、3人なら相手をできても、さすがにこの人数に囲まれたら、いつ解放されるのか分からないからちょっと無理だ。特に外国のファンは、良い意味でも悪い意味でも日本より情熱的な場合が多いから……、絶対に立ち止まるわけにはいかない。
そのまま走り抜けて、途中でタクシーに飛び乗り、滞在するホテルに帰ってきた。
また明日とエリックさんと別れ、それぞれ自分の部屋に戻る。
明日も早いしシャワー浴びて寝るか……、ん?
ここは俺の一人部屋で誰もいないはずなのに、なぜかシャワーの音が聞こえてきて、ぞっとした。なに?誰?泥棒?まさか、熱狂的なファンが部屋に忍び込んで……?
警察……いや、ホテルのフロントか?……やっぱりまずはマネージャーに……
突然の侵入者にどうするべきか考えあぐねて、スマホを持ってうろうろしていると、いきなり浴室のドアが空いた。
「うわーーー!!!」
突然バスタオルだけ巻いた女が出てきて、情けないことに大声を出してしまった俺を呆れたように見るのは、よく知っている顔、メンバーのキャシーだった。
「大きな声出さないでよ。スキャンダルになるわよ?」
「あ、ごめん……、じゃなくて!なんでお前いるんだよ!どうやって入った?」
質問攻めにすると、ふふふ、と口に人差し指を当てられて、入った手段を聞く気も失せた。まあとにかく危険人物じゃなくて良かった……いや、良かった、のか?
目の前には、バスタオル一枚だけのグラマーな美女。まだ少し濡れている金色の長い髪が妙にセクシーで……、ある意味危険人物だ。
「何がしたいんだよ、本当に……。
とりあえず早く服着たら?」
それで早く自分の部屋に戻ってほしい。じゃないと、理性が持ちそうにない。ため息をついて視線を反らすと、トンと体を押されてベッドに座らせられる形になる。
「今から誰かくるの?」
「は?誰がくるの?」
「香港の美人モデル」
「?誰それ?」
落ち着いてはいたけど、少しむっとしたようなキャシーの言いたいことが全く分からなくて、首をかしげる。
「……この前スクープされてたでしょ。
街中で堂々とキスしたりハグしたりしてた人。今日も仕事終わってから会ってたの?」
「ああ!あの人か!
あれはあっちがすごい酔ってただけだよ。酔ってる人を突き飛ばすわけにもいかないし……。今日はエリックさんとご飯行ってただけだよ」
そこまで言われて、ようやく分かった。
香港で活動している日本人のモデルさんも含めて、雑誌の撮影で一緒になったみんなで飲みに行った時のことだ。ちょっと前にスクープされてしまったけど、向こうには彼氏もいるし、そのあとすごい勢いで謝られた。
はは……と力なく苦笑すると、キャシーはなぜか俺の膝の上に乗り上げてきた。
「な、なんだよ……?
もしかして、嫉妬した、とか?」
そんなわけないか……。
当たり前だけど、あのあと事務所からは立場をわきまえろと説教されたし、世間からは色々と邪推された。でも、キャシーに至っては嫉妬どころか興味なさそうだったし……。もちろん嫉妬してくれたんだったら嬉しいけど、キャシーだしな……、俺に興味あるわけないか……。
「だったら、悪い?」
勝手にそう納得していると、予想外の答えとともに首に手を回されて、体が硬直した。
「え……?マジで……?
でも、お前……」
「私が他の男と会うのは良くても、俊輔が他の女と関係をもつのは許されない。俊輔は私のものなの」
「どんだけ自分勝手なんだよ……」
ありえないくらい勝手なことを言われているはずなのに、それでも嬉しいと思ってしまう俺は、色々ともう手遅れだ。
柔かい体、少し濡れた金色の長い髪、化粧もしてないはずなのに真っ赤な唇、甘い匂い。
キャシーの全部が、俺を誘惑する。
「好きなの……」
いつも自信に満ち溢れているキャシーからは想像できないくらい不安そうな顔で、真っ赤な唇からささやかれた言葉。
「マジですか……」
もっとマシなことを言えばいいのに、予想外過ぎて、相変わらず情けないことにそんなことしか言えなくて。
好き?これも新手のイタズラかなんかか?今までが今までだけに、すっと言葉通りに受け取れるわけない。仮に本心だとしても、それって俺と同じ類いの「好き」ではないよな?超自由人のキャシーだし……。
抱きつかれたまま、色々考えていると、柔らかい唇を押し当てられた。
「俊輔は私に翻弄されてると思ってるかもしれないけど、本当は、私の方があなたを手放せないのよ」
ああ、もう、いいや、どうなったって。
一瞬だけでもキャシーが手に入るなら、難しいことは後で考えよう。
とんでもない罠が待ち構えているような気がしなくもないけど、それでも誘惑にのることにして、ゆっくりとキャシーをベッドに押し倒した。
(おしまい)
あとがき
キャシーは自由人なので正式にお付き合い、とまでは中々いかない感じですが、本編でもこっそり(?)ミヒに嫉妬心を燃やしてたし、俊輔が誰かにとられそう!ってなると焦るタイプかなーと思います。キャシーに振り回されてるようで、実はそうでもないような俊輔×キャシーでした。
可愛いものと猫と創作が大好きな物書き。
執筆ジャンルは、恋愛(TL/BL/GL/TSF)、ファンタジー、青春、ヒューマンドラマ、など雑多。年下ヒーローと年下攻めを特に好みます。
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