自作小説『地球を守って!恋するヒーロー』番外編~もう一人のヒーローのその後~
こんにちは、『優月の気ままな創作活動』にお越し頂きありがとうございます。
管理人の春音優月(はるねゆづき)と申します。
今回は、執筆三周年の記念として過去にブログで書いたSSを載せたいと思います。(自作小説『地球を守って~』本編後のSSなので、本編のネタバレを大いに含みます。)
本編の小説情報
小説のリンク先は、小説投稿サイト 野いちご です。
・ 『地球を守って!恋するヒーロー』
【SF】【近未来】【バトル】
2014.07.02~2014.09.22
突然余命宣告された大学生のヒロイン。自暴自棄になって外国に行くが、そこで不思議な力に目覚める。外国で出会った二人の少年と、他の仲間たちと共に地球を守ることになるお話。
番外編『もう一人のヒーローのその後』
・ 『地球を守って!恋するヒーロー』 本編後のもう一人のヒーローのお話
俺は、罪をおかした。
好きになった女も、今までずっと一緒にいた仲間も、そして生まれた国さえも裏切るという、一生をかけても償いきれない罪。
それほどの罪をおかしたにも関わらず、とある事情により、条件付きではあるにしろ今も自由の身だった。
自由の身になったからといって、これといった目的もなければ、裏切り者の烙印を押された俺には居場所もない。持っていたお金のほとんどをかつての戦友への償いにつかったあと、残りのお金を資金に、慣れ親しんだアフリカ大陸横断の旅をしていた。
***
何の目的もなく、ぼうっと観光地や街を歩く毎日。今日も街から少し離れたところを歩いてから、宿を探そうと繁華街に戻ってきたけれど、やけに街が騒がしく、人だかりができている。
また銃撃戦でもあったのか?
野次馬の視線の先に目をやると、黒いスーツを着たサングラスの男たちが、長い黒髪の女の子を追いかけているところだった。
なんだ?チャイニーズマフィア?
東洋人のもめごとかなんか?
どっちにしても治安の悪いこの国ではよくあることだ。面倒ごとにはもう関わりたくない。
遠巻きにみている連中の輪からそっと立ち去ろうとしたその時、俺は目を疑った。
リン、レイ……?
スーツの男たちに追われている黒髪の女の子は、彼女は俺がよく知っている人だった。
艶々した黒髪、ボロボロのTシャツに短パンという服装でも目立つスタイル、そしてそこにいるだけで花が咲いたような美貌。
だけど、なんで彼女が……、ああもう仕方ない。
「こっち!」
注目を浴びながらも野次馬の輪をつっきり、彼女の腕をひく。
***
「あなた、千明……?どうして…….?」
ようやくスーツの男たちを振り切り路地裏にはいると、息ひとつ乱してない俺に対して、美しい彼女は荒く呼吸をしている。
以前の彼女なら、こんなことは戦いの前の準備運動にすらならないだろうに、だ。
やっぱりなにかがおかしい。
「おひさしぶりです、リンレイさま」
「ひさしぶり……じゃなくて、どうして私を助けたの?だって、あなたにとって私は……」
堂々とした態度は以前と少しも変わらないけれど、それでもどこか動揺しているのが感じ取れる。まあ、あんな別れ方をしたら無理もない。
俺だって、何で自分がリンレイを助けたのかも分からないくらいだけど、やっぱり放っておけなかった。
「それより、リンレイ様こそどうして追われてたの?以前の君なら、あんなやつらから逃げ切ることくらい簡単なはず」
逃げ切るどころか、再起不能なくらいに叩きのめすことが可能なはずだ、そう心の中で付け足して彼女を見つめる。
彼女はしばらく地面を見つめたあと、上目づかいで俺を見上げた。
「私は、全ての力を失ったの」
そこまで言うと、リンレイは目を伏せ、伏し目がちに言葉を続ける。
「生まれた時からずっと私は利用されて、誰かの言いなりになって生きてきた。
あれが終われば、ようやく解放してくれるはずだったのに……」
リンレイが、泣いている。
美しくて、ミステリアスで、決して誰も揺るがすことのできなかった、どんなときもいつも凛としていた彼女が、泣いている。
あの日から、どれだけ可愛いこを見ても美味しい料理を食べても少しも心が動かなくなってしまった。
けれど、彼女の涙を見た瞬間、ドクンと俺の中の何かがもう一度大きく波打ったのを感じた。
「いたぞ!こっちだ!」
俺がリンレイに何かを言う前に、中国語を話す黒スーツの男たちが、銃を片手にこちらに押し寄せてくるのが見えた。
「下がってて」
ぎゅっと唇をかみしめる彼女を隠すように、一歩前に出る。それから、両手を前に出した。
力を使うのはずいぶん久しぶりだけど、いけるかな……。
機動隊が持っているような大きな盾を作り出すと、いきなり銃をうってくるとんでもなく危ない野郎どもに、それをはねかえす。銃弾に当たらなかった男に盾で体当たりして気絶させ、最後の男にはすばやく作った鉄の棒を思いきり顔面に叩きつけた。
「リンレイ!今のうちにいこう」
どさくさにまぎれて呼び捨てにした彼女の手をとり、また追手がこないよう再び場所をかえる。
***
なんとかいけるもんだな……。
逃げ込んだのは、古い宿の並ぶさびれた街角。
ひさしぶりに使った力が以前ほどではないけど、それなりに使いこなせたことに余韻に浸る。と、突然リンレイが俺の手をふりほどいた。
「どうして助けたの?
あなたが裏切るように差し向けて、全てを失う原因を作ったのは、私よ?
まさか、さっきの私の言葉を信じたわけじゃないでしょ?」
類いまれなる美貌をもつ彼女は、理解できないというような目で俺を見た。
「どうしてって、目の前で美女が涙を流して助けを求める声が聞こえたから。
それが嘘でも本当でも、守るのがヒーローの役目だ。それ以上の理由が必要?」
「嘘だと分かってても、守るっていうの?
何も理由も聞かずに?相変わらずなのね」
あきれた、と冷たい視線を俺に向ける彼女に、ニッと白い歯を見せ笑ってみせる。
「聞いてほしいなら、いくらでも聞くけど~?
いいたくなら聞かない。
ただ守ってと一言言ってくれたら、世界を敵に回しても守ってみせるよ」
歯の浮くようなバカバカしいセリフに、冷たい視線をなげかけながらも、美しい彼女は、視線をそらさずに俺を見つめる。
世界を敵に回す、なんて漫画でしかありえない状況も、俺たちの場合はマジでありえるのが笑えない。
「本当に、頭のおかしい男。
世界を敵に回しても守る自信があるなら、どうしてあの子のそばを離れたの」
「美菜を守るのは、俺の役目じゃなかったから。
美菜のナイトも、みんなのヒーローも廃業だ。そんなわけで、頭のおかしいこの俺を専属ナイトにできるチャンスは今だけですよ。
どうする?」
美菜なら、頭のおかしい男が専属ナイトなんてお断りだと笑うだろうか。
プライドの高いリンレイなら鼻で笑われたっておかしくない。
けれど、リンレイは一瞬視線を伏せたあと、以前はきっちりメイクされて赤い口紅が塗られていたのと違って、ノーメイクの唇に妖艶な笑みを浮かべた。そして、今はもうなんの力も持たないはずのそのまなざしで俺を見つめる。
「千明、私を守って」
力も、綺麗な装飾品も失ったはずなのに、それでもちっとも魅力を失わない美しい彼女はそう微笑んだ。
「おまかせください、マイプリンセス。
地獄の果てまで、お供しますよ」
美しい俺のお姫様にうやうやしく頭を下げてから、その手をとる。
どうせ今さら失うものなんて何もないんだ。
決して本心を言わないダークヒロインに一生騙され続けるのも悪くない。
(おしまい)
あとがき
千明のその後を書きたかったこともあり、ついでに?本編では悪役だった子とくっつけてみました。カプ萌えなので、出てきたキャラを片っ端からくっつけたくなる病気にかかっています(笑)
正史というよりも、あくまでお遊びのifストーリー、と捉えて頂けますと幸いです。
可愛いものと猫と創作が大好きな物書き。
執筆ジャンルは、恋愛(TL/BL/GL/TSF)、ファンタジー、青春、ヒューマンドラマ、など雑多。年下ヒーローと年下攻めを特に好みます。
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