【小説執筆】お仕事の実績サンプル⑤

2019年7月11日

こんにちは、『優月の気ままな創作活動』にお越し頂きありがとうございます。
管理人の春音優月(はるねゆづき)と申します。

自分のオリジナル小説も趣味で書いていますが、ココナラとスキマで小説執筆のご依頼もお受けしております。

非公開で書かせて頂いた小説も多いのですが、公開許可を頂いたご依頼品はいくつか当ブログでもご紹介させて頂きました。
お仕事実績①
お仕事実績②
お仕事実績③
お仕事実績④

今回の記事では、また新しく公開許可を頂いた作品を紹介させて頂きますので、ご興味のある方はよろしければご覧になっていってくださいね。

恋愛小説・アナザー

サンプル公開

「今度の土曜日、花火大会に行こうよ」

一ヶ月ぶりに聞く小百合の声が電話越しに響く。

今年で交際三年目となる小百合と僕は、どうして三年も付き合えたんだろうと思うくらいに正反対だ。

僕はマイナス思考であまり口数が多い方じゃないけれど、小百合はプラス思考でよくしゃべる。

正反対な性格の僕たちはぶつかり合うことも多く、小さな喧嘩が絶えなかった。

小柄で目が大きく可愛らしい外見からは予想できないくらいに、小百合は男勝りで強気な性格で、自分が悪くても絶対に謝らない。僕よりも二つも年下とはとても思えないくらいだ。

本当は小百合みたいな子は苦手なはずなのに、時折見せる優しさやその可愛らしい顔を見ると簡単に許してしまう。

今回も些細な行き違いで大喧嘩してしまい、いつも以上に腹を立てた僕は一ヶ月も連絡しないでいたのだ。

今思えば、そこまで腹を立てるようなことじゃなかったのかもしれない。今までも喧嘩をしてもその度に僕が折れることで仲直りしてきた。

だけど、どうして僕ばかりがいつも折れなければいけないのだろう。

花火大会の誘いは小百合なりの仲直りの合図だったのだろうけど、どうしても気が収まらない。

「ごめん、その日は仕事があるから……」

どれだけ僕が傷ついてるか知らせたくてわざと断ろうとしたけれど、なぜか小百合が涙を流す姿が脳裏に浮かんできてしまい、そこで言葉を止める。

なぜ今そんな姿が頭に浮かんだのかは分からない。

けれど、小百合の泣き顔に胸が痛むと同時に、僕はどうしようもなく不安に駆られた。

本当に小百合からの誘いを断っていいのだろうか?もし僕がここで誘いを断れば、小百合との関係はどうなってしまうのだろう。

なぜか嫌な予感がおさまらなくなり、考えた末にこう続けた。

「だから行くのが遅くなると思うけど、それでもいいかな?」

それから数年後。

仕事で疲れて帰ってきた僕は、誰もいない家で一人でゆっくりと風呂に浸かったあと、冷蔵庫からビールを出して、それをごくごくと飲み干す。

その時、スマホの着信音が鳴り、僕はビールを置いてスマホを手に取る。

スマホを操作すると、「花火、綺麗でしょ!」という文字と共に、花火を背景にした小百合と子どもの顔が送られてきていた。それを見た僕も自然と笑顔になってしまう。

そう言えば、今日は花火大会に行くって言ってたな。毎年七月の最終土曜日に開催される花火大会。

結婚する前の僕たちが大喧嘩した時、仲直りのきっかけとなったのも花火大会だった。

それからしばらくしてプロポーズして、無事に小百合と結婚したけれど、もしもあの時花火大会に行かなければ、僕たちはどうなっていたんだろう。

相変わらず小さな喧嘩は絶えないけど、子どもも生まれて幸せな今を思うと、あの時花火大会に行って本当に良かった。

小百合に返信をしながら、僕は心からそう思った。

あとがき

ご依頼者様の小説を元に、アナザーバージョンとして執筆させて頂きました。ご依頼者様の小説を元に別のバージョンを書かせて頂くというご依頼は私にとって初めてだったのですが、とても楽しく貴重な経験をさせて頂きました。

昭和風小説・姉の青春

サンプル公開

まだ弟の道彦が幼い頃に私たちの両親が亡くなり、私は家計を支えるためにも若くして就職し、お仕事と家のことを両立させてきた。

両親が亡くなってしまったことは立ち直れなくなるくらいに悲しい出来事だったけれど、姉として私はしっかりと道彦を支えなければいけないと思い、懸命に自分を奮い立たせてきたわ。

十才離れた小さな弟の面倒を見ることや家計を支えることに必死で生きてきたから、恋やオシャレをする心の余裕さえもなかったけれど、部下と上司として和彦さんと出会って全てが変わってしまったの。

今まで一度も男性に恋をしたことがなかった私が初めて恋をしたのが、和彦さんだった。

和彦さんは奥さまやお子さんのいらっしゃる方。いくら素敵な男性とはいえ、他の女性のご主人を想うことなんていけないことだとは分かっていたわ。

それでも、毎日職場で和彦さんと顔を合わせ、上司である和彦さんの頼りがいのある姿や優しい一面を知る度に惹かれていく気持ちをどうしても抑えきれなかった。

和彦さんも同じ気持ちだと知った時は、たとえ世間から後ろ指さされる恋だとしても、この恋を貫き通すと決めたの。

奥さまには申し訳ないけれど、和彦さんだけは絶対に諦めたくない。和彦さんの隣に堂々と一緒にいることができるようになる日まで、私は和彦さんをいつまでも待つわ。

愛し合っていても、もちろん堂々と一緒に外を歩くことはできない。ひたすら隠れて会う日が続いたけれど、ほんのわずかな時間でも和彦さんと一緒にいる時間は幸せだった。
職場でこっそり視線をかわすだけで、その日一日舞い上がるような気持ちになったわ。

和彦さんの目から、私はどううつっているのかしら?……地味じゃないかしら。
もっと和彦さんに見てほしい。
少しでも和彦さんに綺麗だと思われたい。

そんな思いが募り、ある日いつもより少しだけ短い丈のスカートを買ってみた。

私よりも若い女の子たちがうんと短いスカートを履いているのも街では見かけたけれど、弟を育てるのに必死でオシャレなんて一度もしたことがない私にとっては、少しスカートの丈を短くするだけでも大変な勇気が必要だったわ。

けれど、恋をして私は変わったみたい。

和彦さんのために綺麗になりたい。
そのためなら大胆になれる。

勇気を振り絞り、いつもよりも少しだけ脚を出して和彦さんに会いにいくと、和彦さんは綺麗だよとたくさん褒めてくれた。

そして、その日……。

和彦さんは私を求めてくれて、和彦さんの腕の中で私は女になり、初めて男性から愛される喜びを知ったわ。

それ以降、私は徐々に短い丈のスカートを履くようになったけれど、和彦さんの反応も良く、ついには太ももがはっきりとあらわになるような際どい丈のスカートを毎日履くようになった。

短いスカートを履くことも、恥ずかしくはなかったわ。和彦さんも綺麗だと褒めてくれたし、街を歩いていても私と同じような丈のミニスカートを履いている女の子はたくさんいたもの。

私と同じ年頃の二十代半ばかそれ以降の女性は、ストッキングを履いている女性の方が多かったけれど、私はストッキングは履かず、素脚にミニスカートを履いていた。

ストッキングを履くと、なんだか生々しくなるような気がして……。清潔で清楚な印象を保つため、素脚にミニスカートを履いていたのだけど、それがいけなかったのかしら。

パーラーで和彦さんと会っているのを弟の道彦に見られ、はっきりと欲を持った手で脚を触られ、初めて道彦の気持ちに気が付いたわ。

いつのまにか道彦も異性に興味を持つ年頃になり、ミニスカートから見える私の脚を性の対象として見ていたのね。

両親が亡くなった日から、母の代わりとなって道彦の面倒を見てきた。十も年が離れていて、おしめをかえたこともある道彦にまさか異性として意識されていたなんて……。

道彦に脚を触られ、あの日の私たちは姉弟ではなく、一瞬だけ男と女になってしまったけれど、あの日のことは一度だけの過ち。

あの日のことはお互いのためにもなかったことにした方がいい。

そう思い、私も懸命にいつも通りにふるまったけれど、やはり部屋でミニスカートを履いていると道彦の視線を意識してしまう。

今までは気がつかなかったけれど、道彦はいつも私の脚を見ていたのね。

意識し過ぎかもしれないけれど、体勢を変えるたびに道彦に見られている気がして、道彦の方を伺ってしまうし、不自然に脚を隠してしまう。

そんな私に気がついたのか、困った顔をした道彦に、見ないようにしてるから気にしないでと言葉をかけられたけど、どうすればいいのかしら。

こんな態度をとっていたら、道彦の方も嫌でも意識してしまうわよね。まずは私が今まで通り振る舞わなくてはいけないとは分かってはいるのだけど……。

でもやっぱり気まずいし、意識してしまうわ……。

***

仲居さんに案内されて和室に入ると、そこに敷かれている二つのお布団は隙間なくぴったりとくっついていた。それを見ていると、頬がだんだん赤く染まっていくのが自分でも分かったわ。

私たち、夫婦だと思われているのかしら。
きっとそうよね。大人の男女が二人で温泉宿に泊まりにきたら、誰だってそう思うに違いないわ。

奥さまとお子さんが実家に帰るからと、和彦さんから週末に温泉旅行に行かないかと誘われてきたのだけど……。

たった一晩でも、今夜だけは和彦さんの妻として過ごせるのね。

和彦さんの奥さまに対する罪悪感も心のどこかではあったけれど、今夜だけは誰の目も気にすることなく二人きりで夫婦のように過ごせると思うと嬉しくて、ついいつもよりも饒舌になってしまう。

「お仕事も無事に片付いて良かったですわ。
お仕事がまだ残っていたら、ここにも来れませんでしたもの」

「君との旅行が待っていると思うと、何が何でも終わらせないといけないと思ってがんばったよ。いつもの十倍は早く働いたかもしれない。もし毎週君と過ごせたらあっという間に仕事が終わりそうだ」

「うふふ、和彦さんったら」

会社のことや、お友だちのこと、色々なことを話しても和彦さんはずっと穏やかな笑みを浮かべていたけれど、先日のパーラーでの道彦との一件を話すと少しだけ苦い顔をした。

「……弟さんに脚を?そう、そんなことがあったんだね」

「……え、ええ。私、本当に驚いて……」

この話はしてはいけなかったかしら。

もちろん他の誰にも話すつもりはないし、道彦のためにも心に秘めておくつもりだけど、和彦さんにだけは隠し事をしたくない。

「うーん……、君の弟さんだからあまり言いたくはないけど、……弟さんと一緒の時はミニスカートはやめたら?弟さんの前でミニスカートを履くのはあまり良くない気がするよ」

けれど、やはり言わない方が良かったのかしら。

困っているような何かを堪えているような何とも言えない和彦さんの表情を見ると、そんな気がしてしまう。和彦さんのこんな顔初めて見たわ。

「でも、……急にミニスカートをやめたら、余計に変に思われますわ」

「女性の君には分からないかもしれないけど、年頃の男にとっては酷なことだよ。
姉弟で何かあるなんて思ってないかもしれないけど、弟さんだって一人の男なんだから。年頃の女性の太ももを毎日見せつけられたら、欲情したっておかしくないよ。
それに、……君の脚は素敵すぎるんだ。
白くて、むっちりとしていて、触ると柔らかくてすべすべで……。ずっと見ていたくなるし、ずっと触っていたくなる。こんなに綺麗で、魅力的な脚は初めて見たよ。
だから弟さんの気持ちも分かるよ。僕も初めて君の脚を見たとき、年がいもなくクラっとしたからね」

諭すように真面目な表情をしていたけれど、急に照れたように笑った和彦さんにドキッとしてしまう。

そう、……なのかしら。

元々日に焼けにくい体質で、若い頃もロングスカートで脚を出さず過ごしていた私の脚は、たしかに人よりも白いかもしれないわ。

肉つきや肌触りは自分ではよく分からないけれど……。そんなにも私の脚は、男性から見て魅力的で欲情をそそるものなのかしら。

奥さまより、どの女性よりも私の脚に魅力を感じてくれていただなんて、お世辞でも嬉しいわ。

そういえば、私が初めてロングスカート以外のスカートを履いていった日、和彦さんは何度も私の脚を綺麗だよと褒めてくれて、優しくさすってくれたわ。

思い出すと恥ずかしくなり、きっと赤くなっているだろう顔を隠すようにうつむく。

「今だって……綺麗過ぎて我慢できないよ。
この脚に他の男が触れたかと思うと、嫉妬で気が狂いそうだ」

そう言って太ももからゆっくりと脚をさすり上げ、私のミニスカートの裾に手を入れようとしてきた和彦さんの顔を見ると、その目があまりにも真剣で、そしてはっきりと男の人の目をしていて思わずハッとしてしまった。

「和彦さん……」

道彦は十も年下の私の可愛い弟だけど、私を異性として意識している男性でもある。

いくら弟でも、他の男性から脚を触られたなんて話を聞いたら、和彦さんが複雑な気分になるのも当たり前だわ。

「……ごめんなさい」

「君が謝る必要ないよ。君は悪くない。
けれど、もう少しこうさせてほしい」

和彦さんに対して申し訳なく思ったけど、ミニスカートの下から手を入れ、私の脚をさすりあげていく和彦さんの手がいつもよりも熱く、それだけ道彦に強く嫉妬するほどに和彦さんが私を求めてくれると思うと、私の中の女の部分も熱くなっていくみたいだった。

(略)

***

それから三年が経ち、和彦さんは奥さまと離婚し、私たちが正式に結ばれる日も決まった。

奥さまやお子さんには本当に申し訳ないわ。
けれど、たとえ奪ったと言われても、私は和彦さんを諦めきれなかった。

複雑な思いを抱えながらもようやく愛する人と結ばれる喜びに浸りながら、お嫁にいく前の荷物の整理をしていると、昔のアルバムが出てきて、その中の一枚の写真が目にとまる。

「よくこんな短いスカートをはいていたものね」

そこに写っていたのは、今よりも若く、かなり際どい丈のミニスカートを履いている私。

その一枚だけではなく、お友だちとうつっているものや道彦とうつっている写真もあったけれど、どれも同じような丈のミニスカートを履いている。

三年前ぐらいかしら?
あの頃は毎日ミニスカートを履いたものだけれど、私も二十代後半となりミニスカートを履くのがきつくなってきたことや流行が去ったこともあり、いつのまにか履かなくなってしまった。

あの頃は当たり前のようにミニスカートを履いていたけれど、もしも今同じ丈のミニスカートを履こうとしてもきっと無理ね。恥ずかしくてとても履けないわ。

それにしても、懐かしい……。

「姉さん。それ、昔の写真?」

居間で勉強していると思った道彦に声をかけられ、はっとしてアルバムから顔を上げる。

「あら、道彦。お勉強は終わったの?」

「もうとっくに終わったよ」

道彦からそう言われて、壁に掛けてあった時計を見ると、すでにお昼近くになっていた。

嫌だわ、私ったら。
朝早くに家事を終わらせ、すぐに荷物の整理を始めたというのに、すっかり昔のアルバムに見入ってしまっていたのね。

「そうなのね。あまりに懐かしくて、つい見入ってしまっていたわ。
道彦もこの頃はまだ中学生で、私と同じくらいの背丈だったわね。本当に懐かしいわ」

「本当だ。なんかちょっと恥ずかしいな」

中学生の頃の道彦が写っている写真を指差すと、道彦も懐かしそうに目を細める。

毎日見ているとあまり変化に気づかないけれど、こうして昔の写真と見比べてみると、道彦もずいぶん大人になったわ。

まだ中学生だった三年前の道彦は、今よりも少しだけあどけない顔をしていて、私と一緒に写っている写真では背丈がほとんど同じくらいに見える。

けれど、あれから三年が過ぎ、高校生になった道彦はとっくに私の背丈を超え、声も低くなり、体つきだってずいぶんとしっかりしてものへと変わった。

道彦もすっかり男性へと成長したのね。

パーラーでの一件があってから道彦との関係も一時期ギクシャクしていたけれど、私がミニスカートをはかなくなると、かつてのような緊張した関係ではなくなり、いつのまにか普通の姉弟のような関係に戻っていた。

そういえばそんなこともあった、と思えるくらいには道彦との一件は私の中ではすでに思い出に変わっていたし、道彦もきっとそうでしょう。

時が経ち、私もミニスカートをはかなくなり、道彦も私に異性しての興味がなくなった。まだ女の子の話は聞いたことがないけれど、きっと道彦にもそのうち好きな子が出来るに違いないわ。

「お腹が空いたでしょう?すぐにお昼の用意をするわね」

しばらく二人で昔を懐かしみながらアルバムを見た後で立ち上がると、待ってと道彦に止められる。

「それもいいけど、……来週式が終わったら、姉さんはこの家を出ていってしまうんだよね。
だから、……その前に、最後の姉弟デートがしたい」

「……いいわ。いきましょう」

いつになく真剣な表情で訴えてきた道彦の頼みを断れるわけもない。二つ返事で頷くと、道彦はほっとしたような顔をした。

両親が亡くなってから、たった二人きりの家族となってしまった私たちは、身を寄せ合ってずっと姉弟二人で生きてきた。

愛する和彦さんの妻となれるのはもちろん嬉しいけれど、道彦と離れて暮らすのが寂しくないと言えば嘘になる。今まで何年も一緒に暮らしてきたんですもの。

道彦も私と同じように寂しさを感じているのかもしれないわ。

道彦もバイトをしているし、私の貯金もある。
学費は和彦さんが払ってくれることになっているから、学費や当面の生活は困ることはないけれど、お金の心配はなくても、やっぱり今まで二人で過ごしたこの家で一人で暮らすのはきっと寂しいもの……。

「それと、もうひとつだけお願いがあるんだけど、姉さんのミニスカート姿をもう一度見たいんだ。あの頃のようなミニスカートでデートしてほしい」

一人感慨に浸っていると、先程以上に真剣に頼み込まれ言葉に詰まってしまう。

パーラーでの一件はお互いに無かったことにしようとして振舞っていたし、道彦もあのことを口にすることはなかった。もうとっくに思い出になったと思っていたのに、やっぱり道彦はまだあの時のことに強い思いを持っていたのね。

最後の姉弟でのデートなのだから、できるだけ道彦の願いを叶えてあげたいけれど、今になってあの頃履いていたような短いミニスカートを履くなんて……。

もうミニスカートを履くような年齢ではないし、きっと誰も履いていないだろうから恥ずかしいわ。

長いスカートじゃだめかしら、と言おうとしたけれど、道彦があまりに切実な目で私を見つめていたので、私は言おうとしていた言葉を飲み込む。

……そうね、これで最後なのだもの。

ミニスカートを履くのは恥ずかしいけれど、お嫁に行く前に最後にミニスカートを履きましょう。

お嫁に行ったら、もうミニスカートを履く機会も道彦と二人でデートをする機会もないもの。

「……わかったわ」

タンスの奥にしまいこんであったミニスカートをいくつか取り出すと、それを見ていた道彦がこれがいいと紺のミニスカートを指差す。

そのミニスカートは私が好んでよく履いていたもので、あの日のパーラーでも履いていたものだった。

断る理由もなかったので道彦の望み通りに紺のミニスカートを手に取ると、道彦は私に声をかけてから居間の方に行く。

一人きりになってミニスカートを履いてみると、やはりとても短く感じる。

このミニスカート、こんなに短かったかしら。

あの頃は同じ長さのミニスカートを毎日履いていたはずなのに、久しぶりに履いてみると、やけに短く感じる。最近はロングスカートばかり履いていたせいか、こんなに太ももが出ていることに慣れない。なんだか脚を出し過ぎている気がするし、恥ずかしいわ。

「どう……かしら」

ミニスカートに履き替えてから道彦の前に行くと、道彦の視線はあらわになった私の太ももに注がれる。久しぶりに感じる道彦からの視線はとても熱く、私のむき出しになった太ももまでだんだんと熱を持っていくようだった。

「やっぱり似合うね。……すごく素敵だよ、姉さん。誰よりも綺麗だ」

むき出しになった脚をじっと見られて、かあっと頬が熱くなる。

普段はこんなことを言ったりしないのに、あの頃ミニスカートは履いた時も道彦は同じようなことを言ってくれたわね。そして、あの頃と同じような視線を今も向けてくれている。

「そんなにじっと見られると恥ずかしいわ」

久しぶりに感じた道彦からの熱い視線に思わず目を逸らしてしまったけれど、不思議と不快な気持ちにはならなかった。それどころか、その視線に懐かしさとわずかな心地良ささえ感じてしまった。

そのままのミニスカート姿で道彦と一緒に街を歩くと、いつもと同じ街を歩いているはずなのに、強い緊張感を感じて消えてしまいたくなるくらいだった。

以前はあんなにミニスカートをはく女性が街に溢れかえっていたのに、今日ミニスカートをはいているのは私一人で、街ゆく女性はみんな脚を隠している。ここまで惜しげもなく脚をさらけ出しているのは私だけ。

気にしすぎかもしれないけれど、すれ違った男性全員が私の脚を見ているような気がするし、女性にも変な目で見られている気がするわ。

あの頃はたくさんの女性がミニスカートを履いていたから、ここまで視線を集めることもなかったし、変な目で見られることもなかった。

あの頃はみんなが履いていたから恥ずかしくなかったけど、今は私一人だけだと思うといたたまれなくなり、脚を隠したくなる。
ミニスカートをはくことがこんなに恥ずかしいなんて……。

どうしてあの頃はこんなに短いスカートを履き、惜しげもなく脚をさらけ出せたのかしら。

「……道彦。やっぱり、恥ずかしいわ」

隣を歩く道彦に小さな声で漏らすと、大丈夫だよと道彦は笑顔を見せる。

どういう意味かしら。

そう思って道彦を見ていると、道彦は気遣うように私の前に立ち、すれ違うたびに感じる男性の視線を遮ってくれた。

……道彦、なんだか今日はとても頼もしいわ。

それだけではなく、電車に乗って移動した時も椅子から立ち上がったり座ったりする時にも、下着が見えないようにさりげなくガードまでしてくれたわ。

いつのまに道彦はこんなにも頼りがいのある男性に成長していたのかしら。

両親が亡くなったばかりの頃は、一緒に街を歩く時は、小さな道彦が迷子にならないようにいつも私がその手を引いていたのに……。

いつのまにか逆になってしまったのね。
小さな弟の道彦を私が守ってきたけれど、成長によって逆転され、今度は私が道彦に守られる立場になってしまった。

背丈はずいぶん前に抜かされていたけれど、体だけではなく、心まですっかり男性として成長したことを今日一日で改めて実感したわ。

「ミニスカートを履くのってこんなに大変だったのね。守ってくれてありがとう」

あの頃はミニスカートを履くことが当たり前で、みんなが履いていたから視線を気にすることもなかったけど、今日は一日中本当に大変だったわ。

電車から降りた時にお礼を言うと、道彦は少しはにかんだような笑顔を見せた。

その笑顔はまだまだあどけなく少年らしさが残るものだったけど、今日の道彦の振る舞いはもう立派な大人の男性のそれだったわ。

もしも道彦がしっかり私を守ってくれなかったら、私はどうなってしまっていたのかしら。

私一人だったら無数の視線を浴びせられることに恥ずかしさを感じるだけで、対処する方法までは浮かばなかったに違いないわ。

無防備な自分を恥じると同時に、私を守ってくれる弟に頼もしさを感じてしまった。

二人で食事をし、街を歩き、最後の姉弟デートを楽しんだけれど、楽しい時間はあっという間に過ぎ、すっかり日が落ちてしまった。

私も明日はお仕事があるし、道彦も学校がある。

早く帰らなければいけないけれど、最後だと思うとなんとなく名残惜しく、どちらともなくそのまま家の近くの公園に来てしまった。

公園なんて何年振りに来たのかしら。
まだ小さかった頃に遊びにきたような気もするけれど、ずいぶん前のことだからうっすらとしか記憶がない。

うっすらとしか記憶になくても、ここにくると懐かしい気持ちになるのだから不思議だわ。

「道彦は覚えてる?
道彦が小さかった頃にこの公園で学校のお友だちとよく遊んでいたでしょう。
私はお人形さんごっこやおままごとをしている方が好きだったからお外ではあまり遊ばなかったけれど、道彦は男の子だからお外で遊ぶ方が好きだったわね」

「そうだね、なんとなく覚えてるよ。
あ、でも一番良く覚えているのは、僕がそこのブランコから落ちた時のことかな。ちょうど公園に迎えにきてくれた姉さんが泣きじゃくる僕を家までおぶってくれたことがあったよね。
姉さんの柔らかくて温かい背中に安心したな。
あの時のことははっきり覚えてるよ」

「そんなこともあったわね。
懐かしいわ……」

道彦も今ではたくましく育ったけれど、昔はケガをしたり病気をしたり、色々なことがあったわ。その度に心配したものだけれど、ここまで強く育ってくれて本当に良かった。

昔話に花が咲き、二人で話し込んでいると、いつのまにか辺りは真っ暗になり、公園には私たち二人しかいなくなっている。

そろそろ帰りましょう、そう口にしようとした瞬間、ひゅうっと冷たい風が吹くと、急に寒さを感じて思わず震えてしまった。

「姉さん寒いの?」

「ええ、少しね。でも大丈夫よ。
そこまで寒いわけじゃないから」

まだ本格的に寒くなる時期ではないとはいえ、夜風にミニスカートはつらいわ。

いつもならロングスカートを履いていてそこまで寒さを感じないけれど、何も風を遮るものがないからか、今日はやけに寒さを感じた。

両腕で体をさすっていると、ふいに道彦が私を抱き寄せ、ミニスカートからむき出しになっている私の脚に手を伸ばす。

「これで寒くない?」

言葉だけ聞けば私をあたためようとしているように思えるけれど、私の太ももをさする道彦の手つきは確かに欲を持っていた。そう、三年前のあの日パーラーでそうされたように。

「……道彦」

あの日のことは過ち。いくら最後のデートとはいえ、姉弟でこんなことはいけないことだわ。
和彦さんだってきっといい気がしない。

姉として私は道彦を止めなければいけないのだけど、どうしても止めることができずに為すがままになっていた。

道彦は大切な弟であり、私のたった一人の血の繋がった家族。結婚してもそれは変わらないけれど、私がお嫁に行けば確実に道彦との距離は遠くなってしまうし、関係も変わってしまう。

私は妻として和彦さんに尽くし、和彦さんだけを見て生きていくのだから……。

道彦と離れて暮らすことへの寂しさや、大切な弟である道彦を拒絶しきれない思いが混じり合って、私は一歩も動けなくなってしまう。

道彦は私を片手で抱きしめたまま、その手から道彦の気持ちが伝わってくるような手つきで、ゆっくりと私の太ももをさすり続けている。

そうしていたのはほんのわずかな時間だったかもしれないけれど、すごく長い時間が経ったようにも感じた。

「本当に綺麗ですべすべで気持ち良いよ、姉さん。姉さんは誰よりもミニスカートが似合うし、一番脚の綺麗な女性だ」

一番だなんて、……褒め過ぎだわ。
さすがに大げさだとは思ったけれど、道彦は至って真剣と言った様子で、お世辞を言っているような風でもない。

夜風にあたり冷えたはずの体は、いつのまにか芯から熱くなっている。特に道彦が触れている太ももが熱くてたまらなくて、どうしたらいいのか分からなくなる。

せめて姉としての威厳だけは保ちたくて、きゅっと唇を噛みしめ、懸命に動揺した姿を見せないようにした。弟に太ももを触られているというのに拒絶できないことがすでに姉失格なのかもしれないけれど、動揺した姿を見せたくないというのはせめてもの姉としてのプライドだった。

(略)

「ここまでにしておくから。
そのかわり、……」

道彦はそこで言葉を切り、再び私の太ももを熱を持った手つきでさすり始めた。

道彦はその先を口にすることはなかったけど、これ以上はしないから脚だけは思いきりさすらせて、とその目がなによりも強く物語っている。

きっと私がやめてと強く拒絶すれば、道彦は決して無理強いはしてこないでしょうけれど、私は道彦を止めなかった。

私はもうすぐ和彦さんの貞淑な妻となり、いずれ和彦さんの子を産む。
もう他の男性に心を動かされたり、触れ合ったりすることは決してあってはいけない。

好きな人の妻になり、子を産むことは、女性として一番の幸せ。身も心も和彦さんのものになることに後悔なんてないけれど、どうしてかしら。少しだけ切なさと寂しさを感じるのは。

私は和彦さんを愛してる。
その気持ちに嘘はないわ。

でも、……。思えば、まだ若い私、ミニスカートの私を誰よりも強く受け止めてくれたのは道彦だったのかもしれない。

和彦さんに恋をして、和彦さんに綺麗だと思われたくてミニスカートを履き始めたけれど、誰よりもミニスカートの私に熱い視線を送ってくれたのは道彦だった。

ミニスカートからむき出しになった私の脚に欲情し、姉と弟の関係を飛び越え、強く私を求めてくれた。

恋愛やオシャレをする余裕も時間もなかった私は和彦さん以外の男性を知らない。同じ年頃の女性が経験するような恋やデートの経験もなく、二十代半ばになって初めて恋をした。

だから……なのかしら。
道彦との一件が、忘れられない青春の記念碑のように感じてしまうの。

道彦は弟なのに、こんな風に思うなんておかしいわよね。私は姉として道彦を突き放さなければいけないのに、どうして私は突き放せないのかしら。

私が愛しているのは和彦さんで、その気持ちに嘘偽りはないのに、どうして私はこの時間が終わってしまうのが寂しいだなんて感じてしまうのかしら。

姉弟でこんなことおかしいし、いけないことだとは分かっている。けれど、今日くらいは道彦を受け入れてもいいのかもしれない。

私と道彦の関係がおかしくても、この行為が間違っていても、これで最後なのだもの。

妻となり、母となれば、もう二度とこんなに短いミニスカートを履くこともない。もう二度と和彦さん以外の男性に異性として触れられることもない。

さようなら、独身の私。
さようなら、ミニスカートの私。
そして、……さようなら、私を異性として求めてくれていた道彦。

もうじき私は和彦さんの妻となり、道彦とも普通の姉弟に戻るけれど、今だけは、道彦の可愛いミニスカートの恋人でいてもいいわ。

誰もいない真っ暗な公園で私の太ももを熱のこもった手でさすり続ける道彦に、そっと身を委ねた。

あとがき

以前執筆させて頂いた小説お仕事実績④の続編として書かせて頂きました。
昭和を舞台にした小説なので、男女の価値観や考え方も違った部分がありますが、「こういった背景で育ってきたキャラクターは、ここではどう考え、どう行動するのかな?」と考えながら執筆させて頂くのがとても楽しかったです。

まとめ

ご依頼では、普段は自分が書かないような内容や思いつかない内容を執筆できるのがとても楽しいです。ご依頼者様に喜んで頂けることが何より嬉しいですし、こちらも良い刺激を頂いてます。

2019年7月11日創作活動, お仕事の実績

Posted by 春音優月